ZWO ASI585MM の使い方と撮影設定|モノクロ CMOS カメラを最大限に活かす完全ガイド

ZWO ASI585MM の使い方と撮影設定|モノクロ CMOS カメラを最大限に活かす完全ガイド

ZWO ASI585MM は Sony IMX585(STARVIS 2)を搭載した 8.29 メガピクセル・2.9μm 画素のモノクロ CMOS カメラです。ローリングシャッターで最大 47fps(フル解像度・USB3.0・10bit ADC)、量子効率ピーク 91%、512MB DDR3 バッファを備え、Pro 版は 2 段 TEC 冷却で環境温度から最大 35℃ 低下します。本記事では ZWO 公式マニュアル・製品ページと Sony IMX585 データシートに基づき、電源接続からドライバ選び、ADC / USB モード、ゲイン・HCG モード・オフセット、冷却温度、バックフォーカス、EFW(電子フィルターホイール)と LRGB / SHO 光路、ピクセルスケール計算、そして惑星・月・DSO・ナローバンドといった撮影用途別の推奨設定までを、根拠を明示しながら順に整理します。

① ASI585MM の位置づけと基本仕様

ASI585MM は Suzhou ZWO が提供する DSO / 惑星兼用のモノクロ CMOS カメラです。同じ IMX585 センサーを搭載した色 (Color / MC) 版と対になる型番で、色フィルタアレイを持たないためベイヤーデモザイクを経ずに輝度信号を直接取り出せます。LRGB 撮影・ナローバンド(Ha / OIII / SII)撮影・惑星の高感度短時間露光といった用途で、モノクロ運用の柔軟性を発揮します。

ZWO の公式マニュアル(ASI585MC/MM Pro Product Manual, 2025-03 版)は本カメラを「4K SONY CMOS センサー(Type 1/1.2 / 2.9μm 画素)に基づくエントリーモデル DSO カメラ。高速伝送モードで最大 47fps。STARVIS 2 技術で従来 STARVIS 比のダイナミックレンジ・感度が向上」と位置付けています。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §1 / §3.2(2025-03 版 PDF)

センサーおよびカメラ本体の主要スペックは以下のとおりです(Pro 版・MM)。

項目 補足
センサー Sony IMX585 CMOS(STARVIS 2) 裏面照射型(BSI)
センサーフォーマット Type 1/1.2 対角 12.84mm
解像度 3840 × 2160(8.29MP) 4K UHD 相当
画素ピッチ 2.9μm × 2.9μm スクエア画素
センサーサイズ 11.136mm × 6.264mm
シャッター ローリングシャッター グローバル非対応
露出範囲 32μs 〜 2000s
最大フレームレート 47fps(フル解像度・USB3.0・10bit ADC) ROI で更に高速
読み出しノイズ(MM Pro) 0.7 〜 6.4 e(3.8e @ 19.5dB) HCG モード時に低下
量子効率ピーク 91% ZWO 実測値
フルウェル容量(MM Pro) 38.7 Ke MC Pro は 40 Ke
ADC 12bit / 10bit(高速モード)
DDR3 バッファ 512MB フレームドロップ抑制
USB ポート USB 3.0 Type-B(データ)+ USB 2.0 HUB EFW / EAF / ガイドカメラ接続用
保護窓 D32 × 2mm AR コーティング 近紫外〜近赤外を透過
アダプタ M42 × 0.75 11mm リング取外可
バックフォーカス 17.5mm(11mm リング装着時)/ 6.5mm(リング取外時) スペーサーで微調整
冷却 2 段 TEC 冷却 Pro 版のみ
冷却ΔT 環境温度 30℃ 時に 30〜35℃ 低下 環境低温時は ΔT 低下
消費電力(冷却 ON) 12V, 最大 3A 冷却時最大 22.6W
対応 OS Windows / Linux / Mac OSX
本体寸法 φ78 × 73.5 mm Pro 版
重量 0.47kg Pro 版
保証期間 ZWO ブランド製品 2 年(受領翌日起算)

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.2 Camera Specifications / §2 Notice for Use / §3.4 Protective Window / §3.6 Two-stage TEC Cooling / §3.7 Power Consumption / §4 What's in the Box / §7 Warranty(2025-03 版 PDF)

Sony IMX585(STARVIS 2)センサーの素性

ZWO の外装スペック表と合わせて、Sony 半導体ソリューションズが公開している IMX585-AAQJ1 のフライヤーを読むと、センサー単体としての基礎特性が明確になります。

  • センサー分類: 対角 12.84mm(Type 1/1.2)CMOS アクティブ画素型ソリッドステートイメージセンサー
  • 総画素数 3856×2220(約 8.56M)、有効画素 3856×2180(約 8.40M)、推奨記録画素 3840×2160(約 8.29M)
  • 画素ピッチ 2.9μm × 2.9μm、スクエア画素
  • 電源: アナログ 3.3V / デジタル 1.1V / インターフェース 1.8V の 3 電源
  • 読み出しモード: 全画素スキャン、水平/垂直 2 ラインビニング、ウィンドウクロップ、水平/垂直方向のリードアウト反転
  • センサー単体最大フレームレート: 全画素スキャンモード時、12bit で 60fps / 10bit で 90fps(CSI-2 出力)
  • アナログゲイン: 0〜30dB(0.3dB ステップ)+ デジタルゲイン 30.3〜72dB(0.3dB ステップ)
  • HDR モード: Digital overlap HDR(DOL-HDR)と Clear HDR
  • インターフェース: CSI-2(2/4/8 Lane または 4Lane × 2ch)、RAW10 / RAW12 / RAW16(Clear HDR 時)
  • STARVIS 2 は Sony Group の商標で、CMOS イメージセンサー向け裏面照射型画素技術。同画素サイズ・シングル露光時のダイナミックレンジは STARVIS 比で 8dB 以上向上(AD 12bit)

出典: Sony IMX585-AAQJ1 Flyer §Description / §Features / §Device Structure / §Basic Drive Mode / §注記(STARVIS 2)(Ver.1.0)

ZWO ASI585MM の実装フレームレート(USB3.0 / 10bit ADC で 46.9fps)は、センサー単体の 10bit 全画素スキャンモード 90fps に対して USB 帯域や画像処理パイプラインでの制約により約半分になっている、と読み取れます。ROI(Region of Interest)でセンサー出力を絞ればカメラ側の実効 fps はさらに上がります(§4 参照)。

アンプグロー(Amp Glow)の扱い

ZWO 公式マニュアルは「ASI585MC/MM Pro exhibits extremely clean dark frames with zero amp glow!」と明示し、露出時間・ゲイン値によらずクリーンなダークフレームが得られるとしています。非冷却 ASI585 のマニュアル V1.0 も「hardware level で実装されておりソフトウェア制御を要さない」と補足しています。ダーク減算後の残留グローに悩まされにくいセンサーで、モノクロ運用時のフラット / バイアス / ダーク処理が比較的シンプルになります。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §1 No Amp Glow(2025-03 版)/ ZWO ASI585 Manual V1.0 §5 No amp glow(2022-08 版)

② 動作環境と電源接続

動作温度・湿度

公式マニュアルは動作環境を明確に指定しています。この範囲を外れると故障につながる旨も明記されているため、真夏の車内放置・真冬の急冷却・結露状態での通電などは避けます。

項目
動作温度 -5℃ 〜 50℃
動作湿度 20% 〜 80%
保管温度 -20℃ 〜 60℃
保管湿度 20% 〜 95%

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §2 Notice for Use

電源仕様(Pro 版)

Pro 版の TEC 冷却は外部電源を必須とします。マニュアルは以下を推奨しています。

  • 12V @ 3A〜5A DC アダプタ(D5.5 × 2.1mm、中心プラス)
  • もしくは 11〜14V のリチウムバッテリ
  • ASIAIR からの給電にも対応

「使用電圧が仕様範囲を外れると、修復不能なカメラ故障につながる可能性がある」と警告されています。市販の可変電源や汎用ジャンプスターターを使う場合は、出力電圧が 11〜14V に収まっていることをテスターで確認してから接続します。ケーブル / コネクタの極性が逆になっている社外品も避けるべきです。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §2 Notice for Use

消費電力

Pro 版の消費電力は冷却の有無で大きく異なります。ポータブル電源運用時のランタイム見積もりに使います。

状態 最大消費電力
冷却 OFF 2.5W
冷却 ON(最大負荷) 22.6W

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.7 Power Consumption

非冷却版 ASI585 の給電

非冷却の ASI585 マニュアル V1.0 では「USB 給電で最大消費電力 2.86W」と記載されています。非冷却版は USB バスパワーだけで動作するため、外部 12V 電源は不要です。出典: ZWO ASI585 Manual V1.0 §6.3 Power consumption

③ ソフトウェアとドライバの選び方

ASI585MM を PC / Mac / Linux で扱う場合、または ASIAIR(ZWO 製ワイヤレスコントローラ)から扱う場合で用意するソフトウェアが変わります。

PC / Mac / Linux から使う場合

ZWO の Download Center が公開している 2026 年時点の主要ソフトウェアは次のとおりです。

ソフトウェア 用途 配布 OS 最新版(記事時点)
ASI ネイティブカメラドライバ カメラ本体を OS に認識させる(Windows のみ必須) Windows V3.27(2026-01-12)
ASCOM ドライバ N.I.N.A. / SharpCap / SGP / TheSkyX 等 ASCOM 系ソフトから制御 Windows(要 ASCOM Platform) V6.5.35(2026-02-10)
ASIStudio ZWO 純正の撮影統合ソフト(後述のサブモジュール群) Windows / macOS / Linux V1.19(2026-03-31)

macOS / Linux はネイティブドライバのインストールが不要で、ASIStudio 単体で動きます。Windows のみカメラを認識させるためにネイティブドライバの事前インストールが必要です。また、ASCOM プラットフォームは ASCOM 財団が別途配布しているものを先に入れてから ZWO の ASCOM ドライバを入れる、というインストール順序が指定されています。出典: ZWO Download Center(Windows / macOS / Linux 各セクション) / ZWO Software Center

ASIStudio に含まれるモジュール

ASIStudio は次のサブモジュールを統合したパッケージです。惑星と DSO で使うモジュールが分かれているため、目的別に切替えます。

  • ASICap: 惑星撮影用の高フレームレートキャプチャ
  • ASIImg: DSO 撮影(長時間露光)用
  • ASILive: DSO のライブスタッキング
  • ASIFitsView: FITS 画像ビューア
  • ASIDeepStack: DSO 画像のスタック処理

出典: ZWO Software Center(ASIStudio 説明)

ASIAIR から使う場合

ASIAIR(Plus / Mini / Pro)を使う場合、PC 側のドライバインストールは不要です。ASIAIR がカメラ制御を代行し、iOS / Android の ASIAIR アプリからライブビュー・オートフォーカス・プレートソルビング・オートガイド・ディザリング・シーケンス撮影を行います。ASIAIR は本カメラの給電にも対応します。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §2 Notice for Use("You can also use ASIAIR to power the cameras.")

④ ADC・USB モードとフレームレートの選び方

ADC ビット深度と高速モード

ASI585MM は 12bit ADC と 10bit ADC の 2 モードを持ちます。10bit ADC は「高速モード」と呼ばれ、フレームレートを稼げる代わりに階調が浅くなります。フル解像度で 47fps を出せるのは 10bit ADC 側で、12bit ADC はフル解像度で 23.7fps に半減します。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.5 Analog to Digital Converter (ADC)

USB 帯域とフレームレート早見表

マニュアルは USB モードと解像度ごとの最大フレームレートを一覧化しています。USB3.0 と USB2.0 で 3840×2160 のフレームレートは 10 倍近い差になります。ノート PC の USB ハブ経由や延長ケーブル介在で USB2.0 にフォールバックしてしまうと、実効フレームレートが激減する点に注意します。

解像度 USB3.0 / 12bit RAW16 USB3.0 / 12bit RAW8 USB3.0 / 10bit 高速モード RAW8 USB2.0 / 12bit RAW16 USB2.0 / 10bit 高速モード RAW8
3840 × 2160 23.7 fps 46.9 fps 46.9 fps 2.61 fps 5.2 fps
1920 × 1080 91.4 fps 91.4 fps 91.4 fps 10.4 fps 20.8 fps
1280 × 720 133.5 fps 133.5 fps 133.5 fps 23.5 fps 47 fps
640 × 480 192.9 fps 192.9 fps 192.9 fps 70.5 fps 141.3 fps
320 × 240 347.3 fps 347.3 fps 347.3 fps 283.1 fps 347.3 fps

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.5 Analog to Digital Converter (ADC)(フレームレート表)

ADC / USB モードの使い分け指針

  • DSO 撮影・ナローバンド撮影: 12bit ADC を使い、階調を犠牲にしない。フル解像度でも 23.7fps 出るため、10 秒〜数分単位の長時間露光で困ることはない。
  • 惑星撮影・月撮影・EAA(ライブスタック): 10bit ADC(高速モード)で fps を稼ぐ。惑星は数千〜数万フレームの中から良像だけをスタックする「Lucky Imaging」が前提なので、階調よりフレームレートを優先。
  • 接続経路: USB3.0 ケーブル(付属 2m)は延長せず、根元の USB3.0 ポート(できれば独立コントローラ側)に直結する。USB HUB を挟むと帯域を割り切ってしまうケースがある。

ROI と Binning

フル解像度が不要な用途(惑星は視直径数十秒角のため画面のごく一部にしか映らない)では、ROI(Region of Interest)でセンサー出力を切り出せば実効フレームレートが上がります。ASI585 非冷却マニュアルは「software bin2/bin3/bin4、hardware bin2/bin3/bin4 いずれもサポート。速度が最優先でなければソフトウェアビニングを推奨」と記しています。出典: ZWO ASI585 Manual V1.0 §6.6 Binning

⑤ ゲイン・HCG モード・オフセットの考え方

HCG モード(High Conversion Gain)

ASI585MM には「HCG モード」と呼ばれる読み出し回路の切替機能があります。ゲインを一定値以上に上げると自動的にオンになり、読み出しノイズを下げつつ低ゲイン時と同程度のダイナミックレンジを維持するのが目的です。閾値ゲインの表記は、参照する ZWO の一次情報の版で異なります。

出典 HCG 自動オン閾値ゲイン 読み出しノイズ ダイナミックレンジ
ZWO 公式製品ページ ASI585MC/MM Pro(現行) ゲイン 200 0.7 e 相当 12 bit に近い
ZWO 公式製品ページ ASI585MC/MM Air(現行) ゲイン 200 0.7 e 相当 12 bit に近い
ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual V1.0 PDF(2025-03 版) ゲイン 252 0.7 e 未満 11 stops に近い
ZWO ASI585 Manual V1.0 PDF(2022-08 版・非冷却) ゲイン 252 1.5 e 11 bit に近い

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro 製品ページ本文 / ZWO ASI585MC/MM Air 製品ページ本文 / ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.3 Read Noise / ZWO ASI585 Manual V1.0 §4

実運用では、使っているファームウェア / アプリバージョンで表示される閾値を確認するのが確実です。ASIAIR アプリや ASIStudio が最新版であればゲイン 200 が HCG モードのブレイクポイントとして表示され、旧版ソフトや旧世代マニュアルではゲイン 252 と表示・記載されている、という関係にあります。

用途別のゲイン設定の考え方

ZWO の一次情報は「用途別の推奨ゲイン値」を数値で断言していません(マニュアル §3.3 は QE / 読み出しノイズの曲線提示に留まる)。したがって、以下は「HCG モードの特性から導かれる原則」として提示します。

  • 広ダイナミックレンジが必要なブロードバンド DSO(LRGB / 銀河 / 恒星の多い星雲): 低ゲイン領域(HCG モード自動オン閾値未満)を選び、フルウェル容量 38.7Ke を活かす。露出時間を長めに取り、S/N は積算で稼ぐ。
  • 暗い被写体・光害地・ナローバンド撮影(Ha / OIII / SII): HCG モード自動オン閾値以上を選び、読み出しノイズを最小化する。ダイナミックレンジは 11〜12bit あれば線状構造・淡い星雲の描出に十分。
  • 惑星・月・高速電子観望: HCG モード自動オンより上のゲイン域も含めて、露出時間を短くしてシーイングによる像揺れを止める方を優先する。

オフセット

ZWO の ASI585MC/MM Pro Product Manual および ASI585 Manual V1.0 のいずれも、オフセット(Offset)の推奨値を数値で断言する記述は本文中にありません。原則としては「バイアスフレームの最頻値がゼロクリップされない、最小限のオフセット」を選ぶのが基本で、実撮影時はソフト(ASIStudio / ASIAIR / SharpCap 等)のデフォルト値から始め、ヒストグラム左端が 0 に張り付かないところまで持ち上げれば十分です。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3(オフセット推奨値は本文で明示されていないため、一般的なバイアスヒストグラム原則を天体撮影の経験則として付記)

⑥ 冷却温度の設定と結露対策

2 段 TEC 冷却の実力

Pro 版の 2 段 TEC 冷却は、環境温度から最大 ΔT 35℃ 低下させることができます。マニュアルは以下の条件を明示しています。

  • ΔT 35℃ は「環境温度 30℃ 条件で測定」した値
  • 冷却システムが長時間稼働すると ΔT はやや低下する
  • 環境温度が下がるほど ΔT の到達値も小さくなる
  • ダーク電流曲線は -20℃〜30℃ の範囲で公開されている

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.6 Two-stage TEC Cooling

したがって「常時 -35℃ で撮影できる」わけではなく、「環境温度 30℃ なら -5℃ 前後、環境温度 10℃ なら -20℃ 前後が目標として現実的」というのが公式スペックからの読み取り方です。撮影開始前に外気温を測り、そこから 25〜30℃ ほど下げた温度を目標にしてクーラーを走らせるのが基本になります。

ダーク電流の目安

マニュアル §3.6 にはダーク電流曲線が -20℃〜30℃ の範囲で提示されており、環境温度依存で急激に上がる傾向が示されています。曲線の絶対値まで本記事に転記することは避けますが(曲線グラフを本文中で数値化する場合、想像による細部改変のリスクがあるため)、「同じ露出時間ならセンサー温度を 10℃ 下げるだけでダーク電流由来のノイズは体感でも分かるほど下がる」という一般則と一致します。冷却設定温度を毎回同じにすることで、ダーク・バイアスのマスターフレームを使い回せる点も冷却モデルの実務的メリットです。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.6 Two-stage TEC Cooling

結露対策と保管

ZWO ASI585 Manual V1.0 は本体シール構造と AR 保護窓によりダスト・湿気からセンサーを保護するとしています。長期保管後に結露が疑われる場合は、ASI カメラの乾燥剤の再乾燥手順が別 PDF で提供されています。出典: ZWO ASI585 Manual V1.0 §8 Cleaning(乾燥剤再乾燥手順の別ドキュメントへ誘導)

⑦ バックフォーカスと 55mm 光路構成

ASI585MM のバックフォーカス

Pro 版のバックフォーカスは、付属の 11mm M42 リングの装脱によって切り替わります。

構成 バックフォーカス
11mm M42 リング装着時 17.5mm
11mm M42 リング取外時 6.5mm

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.2 Camera Specifications

付属スペーサーは 0.1mm×1・0.2mm×2・0.5mm×1 の 4 枚で、これらを組み合わせて 0.1mm 単位でバックフォーカスを微調整できます。フラットナー / レデューサ / 補正レンズ側の指定バックフォーカスに対して 0.5〜1mm 単位の追い込みが必要な場合はこのスペーサーで詰めます。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §4 What's in the Box?

55mm ベストバックフォーカスの考え方

ZWO は 2024-09 に「ASI Camera 55mm Back Focus Solution」の解説記事を公開しています。ここで示されている要点は以下のとおりです。

  • ASI Pro 系カメラには M42 センサーチルトアダプタが同梱される
  • APS-C / フルフレーム機向けにはフィルターホイールを含めて「55mm」ではなく「56mm」となる 2" EFW 構成が推奨される
  • 2" EFW はフルフレーム冷却機と組合せる場合の推奨。より小型の EFW は口径蝕(ケラレ)や視野蹴られのリスクがある
  • 36mm EFW は F5.4 以上の焦点比の光学系で APS-C 機と併用する用途に向く
  • フルフレーム冷却カメラでは 2" EFW またはフィルタードロワーのみが推奨される

ASI585MM のセンサーは Type 1/1.2 と APS-C や 4/3 型より小型(対角 12.84mm)です。したがって「フルフレーム機向けの 2" EFW を必ず選ぶべき」というほどではなく、1.25" EFW(EFW mini 5 ポジション、EFW 8 ポジション)で口径蝕の心配なく LRGB / SHO を組める、という利点があります。出典: ZWO ASI Camera 55mm Back Focus Solution(2025 Updated)

⑧ フィルターホイール(EFW)と LRGB / SHO 光路

EFW のラインナップ

ZWO EFW Quick Guide V2.1 が明示している構成は次のとおりです。

フィルター規格 対応 EFW
1.25" / 31mm EFW mini 5 ポジション、EFW 8 ポジション
36mm EFW 7 ポジション
2" EFW 5 ポジション、EFW 7 ポジション

出典: ZWO EFW Quick Guide V2.1 §Introduction

ZWO 公式製品ページによれば、現行 EFW はいずれも「USB 2.0 Type-A to Type-C」ケーブル同梱で、以前の USB Type-B から USB-C コネクタに刷新されています。出典: ZWO EFW Filter Wheels 製品ページ本文

フィルター装填の制限

EFW Quick Guide は装填可能なフィルター厚を明示しています。市販のフィルターがこの範囲に収まっているかを購入前に確認します。

  • マウント付き 1.25" / 2" フィルター: ネジ部を除いた厚さが 7mm 未満、ネジ部厚さは 3mm 未満
  • マウント無しの 31mm / 36mm / 51mm 素通しフィルター: 付属 M2 ネジ + ワッシャで固定
  • フィルターホイールへの取付順序(=ソフトウェア上の位置番号)は撮影ソフト側で必ず 1:1 で管理する

出典: ZWO EFW Quick Guide V2.1 §Installation of Filters

EFW の接続とドライバ

EFW は USB HID デバイスとして設計されており、キーボードやマウスと同じクラスドライバで OS に認識されます。ASCOM プラットフォームを先に入れてから EFW ASCOM ドライバをインストールすれば、SharpCap / FireCapture / N.I.N.A. / SGP / TheSkyX / APT など主要な ASCOM 対応ソフトから制御可能です。出典: ZWO EFW Quick Guide V2.1 §Driver installation

ASIAIR から使う場合は ASCOM ドライバは不要で、ASIAIR 本体が EFW を認識・制御します。ASI585MM の USB 2.0 HUB を経由して EFW を繋げば、母艦から生えるケーブルを最小化できます。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.8 High Transmission Speed(USB 2.0 HUB 記述)

7 ポジション時のバランス配置

EFW Quick Guide のトラブルシュートには「7 ポジション EFW でスロット 1・2・3・4 にフィルタを、5・6・7 を空にすると内部バランスが崩れて動作不良を起こす場合がある」との具体的な事例が示され、対策として「1・3・5・7 にフィルタを分散配置する」ことが推奨されています。SHO の 3 枚だけを 7 ポジション EFW に載せる場合はこのバランス配置を意識します。出典: ZWO EFW Quick Guide V2.1 §Trouble shooting

⑨ ピクセルスケールと焦点距離の選び方

ピクセルスケールの計算式

ピクセルスケール(1 画素が受け持つ天空上の角度)は、天体撮影の一般式で計算します。

ピクセルスケール(秒角/画素)= 206 × 画素ピッチ(μm)÷ 焦点距離(mm)

出典: 天体撮影の一般式(1 ラジアン = 206264.8 秒角の近似 206 を使ったもの)。ZWO 公式マニュアルには数値は掲載されていないため、本記事は一般式として明示的に記載している

ASI585MM(2.9μm 画素)でのピクセルスケール早見表

ASI585MM の 2.9μm 画素で代表的な焦点距離と組み合わせた場合のピクセルスケールは次のようになります。

焦点距離 ピクセルスケール 向く用途
250 mm 約 2.39 秒/画素 広視野 DSO・星雲全景
400 mm 約 1.49 秒/画素 中口径鏡筒の DSO 撮影
600 mm 約 0.996 秒/画素 DSO の細部・銀河
1000 mm 約 0.597 秒/画素 シーイング良好時の系外銀河
1500 mm 約 0.398 秒/画素 オーバーサンプリング寄り
2000 mm 以上 約 0.3 秒/画素以下 惑星撮影(Lucky Imaging)

出典: 206 × 2.9μm ÷ 焦点距離(mm) の計算結果。基礎式は一般的な天体撮影の光学式であり ZWO 公式マニュアル非掲載のため、本記事内での透明化計算として提示

視野角(Field of View)

ASI585MM のセンサー実効サイズは 11.136mm × 6.264mm です。視野角は焦点距離に反比例するため、焦点距離 F(mm)に対して次のように計算できます。

視野長辺(度)= 2 × atan(11.136 / 2 / F)× 180 / π
視野短辺(度)= 2 × atan(6.264 / 2 / F)× 180 / π

例えば焦点距離 600mm では、視野は約 1.06° × 0.60° となり、アンドロメダ銀河(M31、視直径約 3°)を全景で収めるには広すぎる短辺、系外銀河 M33 やオリオン大星雲 M42 の中心部を撮る用途にちょうど良いサイズです。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.2 Sensor size(11.136mm × 6.264mm)を用いた透明化計算

⑩ 撮影用途別の推奨設定

10-1. 惑星撮影(月・金星・火星・木星・土星)

  • ADC: 10bit 高速モード
  • 解像度: フル 3840×2160 のまま。惑星は視野中央に来るように ROI(1280×720 や 640×480)でクロップして fps を確保するのが定石
  • フレームレート目標: USB3.0 使用で 47〜133fps(ROI 依存)。露出時間はシーイングによる像揺れを止められる 5〜30 ms 程度
  • ゲイン: HCG 閾値付近〜以上。惑星は高速露光が優先。露出が短い分ゲインで補償する
  • ソフトウェア: ASICap(ASIStudio 内)や FireCapture / SharpCap
  • フィルター(モノクロ運用): L / R / G / B もしくは Ha / OIII / Methane(惑星専用)を単独か組み合わせて。ZWO ADC(Atmospheric Dispersion Corrector)併用が有効

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.5(USB / ADC / ROI とフレームレートの関係)

10-2. 月撮影

  • ADC: 10bit 高速モード / 12bit(動画スタック用途・ハイライト残し用)
  • 解像度: 月の見掛け直径は約 0.5°。焦点距離により全景撮影とモザイク撮影を切り分ける。ASI585MM のセンサー短辺で焦点距離 700mm 前後がちょうど月全景に収まるサイズ
  • 露出: 数百 μs〜数 ms。輝面はハイライト飛びしやすいので、ヒストグラム右端 60〜80% を目安に露出を切る
  • ゲイン: 低〜中ゲイン領域。月は十分明るいため HCG モード必須ではない
  • ソフトウェア: ASICap / SharpCap / FireCapture でシーケンス動画(SER/AVI)撮影 → AutoStakkert! → RegiStax の順で処理

10-3. DSO 撮影(LRGB)

  • ADC: 12bit(RAW16)
  • 解像度: フル 3840×2160
  • フィルター: L(輝度)、R、G、B の 4 枚を EFW(1.25" 8 ポジション、または 2" 5/7 ポジション)に装填
  • ゲイン: 低ゲイン領域を選び、フルウェル 38.7Ke を活かして淡い信号と明るい恒星を両立させる(HCG モード自動オン閾値未満)
  • 露出時間: 60s〜300s / 枚を目安。ダイナミックレンジと追尾精度・シーイング条件から調整
  • 冷却温度: 環境温度 -25〜-30℃(環境温度に応じて達成可能なところまで)で固定
  • ソフトウェア: N.I.N.A. / ASIImg / ASILive / SharpCap Pro。ディザリング必須

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.2 / §3.5 / §3.6(フルウェル・ADC・冷却スペックの根拠)

10-4. ナローバンド DSO 撮影(Ha / OIII / SII)

  • ADC: 12bit(RAW16)
  • 解像度: フル 3840×2160
  • フィルター: Ha 3nm、OIII 3nm、SII 3nm など、モノクロ運用の単波長フィルタ。EFW への装填時は 7 ポジション以上ならバランス配置(1・3・5・7)を意識する
  • ゲイン: HCG モード自動オン閾値以上(現行製品ページ表記で 200 以上、V1.0 マニュアル表記で 252 以上)を選び、読み出しノイズを最小化する
  • 露出時間: 180s〜600s / 枚。ナローバンドはバンド幅が狭く光量が少ないため長時間露光が必須
  • 冷却温度: LRGB と同条件
  • ソフトウェア: N.I.N.A. のシーケンサでフィルタ自動切替を含めた無人撮影構成が組みやすい

出典: ZWO ASI585MC/MM Pro 製品ページ本文(HCG モード自動オン閾値ゲイン 200・0.7e)/ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.3 Read Noise(ゲイン 252 表記)/ZWO EFW Quick Guide V2.1 §Trouble shooting(バランス配置)

10-5. EAA(電子観望)

  • ADC: 10bit 高速モード(ライブスタックの応答性を優先)
  • 解像度: フル 3840×2160 のままか、bin2 で信号を稼ぐ
  • フィルター: 光害地なら Ha 6.5nm / 7nm 系のやや広めのナローバンド、または UV/IR カット + L
  • ゲイン: HCG モード自動オン閾値以上(現行製品ページ表記の 200 以上、または V1.0 マニュアル表記の 252 以上)
  • 露出時間: 5〜30s / 枚を積算
  • ソフトウェア: ASILive(ASIStudio 同梱)や SharpCap Pro のライブスタッキング機能

出典: ZWO Software Center(ASILive の位置付け)

⑪ 関連商品

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最終更新: 2026-07-05/執筆: 天体ショップ スタッフ/記事内のすべての技術情報は ZWO 公式マニュアル・ZWO 公式製品ページ・Sony Semiconductor Solutions IMX585-AAQJ1 Flyer に基づいて記載しています。弊社内部統計や実績数値は記載していません。一次情報で裏取りできない項目は削除してあります。

⑬ よくある質問(FAQ)

Q1. ASI585MM と ASI585MC の違いは?

センサーはどちらも Sony IMX585 で同じですが、MM はモノクロ(色フィルタなし)、MC はカラー(RGB ベイヤーカラーフィルタあり)です。MM は LRGB / SHO 撮影時にフィルターホイールで単波長ずつ露光するのが前提で、色情報は個別の R / G / B 画像を合成して作ります。MC はワンショットカラー(OSC)としてそのまま色画像が撮れる代わりに、各画素が担当する 1 色以外は補間で作られます。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.2 Camera Specifications(両モデル比較表)

Q2. HCG モードはどのゲインで自動オンになりますか?

現行の ZWO 公式製品ページ(ASI585MC/MM Pro および ASI585MC/MM Air)ではゲイン 200 と記載されています。一方、2022 年の ASI585 Manual V1.0 および 2025-03 版 ASI585MC/MM Pro Product Manual PDF ではゲイン 252 と記載されています。実運用では、使っている ASIAIR アプリまたは ASIStudio のバージョンで表示される数値を優先してください。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro 製品ページ / ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.3

Q3. USB2.0 でも使えますか?

使えますが、フル解像度でのフレームレートが大きく低下します。マニュアル §3.5 の表によれば、USB3.0 で 3840×2160 が 46.9fps(10bit ADC)に対し、USB2.0 では 5.2fps まで落ちます。惑星撮影・EAA では USB3.0 直結が事実上必須です。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.5

Q4. 冷却は必ず -35℃ まで下がりますか?

いいえ。マニュアル §3.6 は「ΔT 35℃ は環境温度 30℃ 条件で測定した値」であり、環境温度が下がると ΔT の到達値も小さくなる、と明記しています。実運用では「外気温 -X℃」の相対値で目標温度を決めます。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.6 Two-stage TEC Cooling

Q5. Mac や Linux でもドライバは必要?

ZWO Download Center の記載どおり、macOS と Linux ではネイティブドライバのインストールは不要です。ASIStudio(V1.19、2026-03-31 時点)をそのまま入れれば動作します。Windows のみ、ネイティブカメラドライバの事前インストールが必要です。出典: ZWO Download Center

Q6. バックフォーカスは何 mm で設計すればいい?

フラットナー / レデューサ / 補正レンズ側の指定バックフォーカスに合わせるのが原則です。ASI585MM Pro は 11mm M42 リング装着時 17.5mm、リング取外時 6.5mm、付属スペーサー(0.1mm×1・0.2mm×2・0.5mm×1)で 0.1mm 単位の調整が可能です。EFW を挟む場合は EFW の光路長(各モデルで異なる)と合算して、フラットナー指定値(多くの場合 55mm)に合わせます。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §3.2 / §4 / ZWO 55mm Back Focus Solution

Q7. ナローバンドフィルターは何 nm を選ぶ?

光害地では 3nm または 3.5nm、郊外〜暗い空では 6.5〜7nm を選ぶのが一般的です。ZWO 公式は特定バンド幅を推奨してはいませんが、モノクロ運用では OSC のような Dual band 一体型ではなく、Ha / OIII / SII それぞれ単波長のフィルタを個別に装填します。ZWO ASI585MM の 2.9μm 画素とセンサー面積からすると、1.25" / 31mm フィルタでもケラレは発生しにくく、EFW 8 ポジション(1.25")は SHO + L + R + G + B + UV/IR カットの 8 種を無理なく載せられます。出典: ZWO EFW Quick Guide V2.1 §Introduction

Q8. 保証期間はどれくらいですか?

ZWO のブランド保証は 2 年間(受領翌日起算)です。天体ショップ(株式会社天文堂)は、これに加えて弊社独自の初期不良 60 日と 3 年保証で対応します。出典: ZWO ASI585MC/MM Pro Product Manual §7 Warranty

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