トゥープテック ToupTek ATR585C ATR シリーズ撮影用冷却 冷却 CMOS カメラ|使い方・撮影設定 完全ガイド
ToupTek(トゥープテック)の ATR585C は、Sony IMX585 センサーを搭載した 1/1.2 インチ・8.3 MP のカラー冷却 CMOS 天体カメラです。USB 3.0 データ通信・二段 TEC 冷却(環境から最大 -45℃)・512MB DDR3 バッファ・ゼロ Amp-Glow・防露ヒーターを 1 台に収め、DSO(深宇宙)撮影を主目的にしつつ惑星撮影にも使える構成になっています。本ガイドでは、ATR585C の 初回セットアップから撮影パラメータ設定・結露対策・フィルター選択・トラブルシュートまでを、ToupTek 公式マニュアル・公式ブログ・Sony IMX585 フライヤー等の一次情報だけを根拠にまとめました。
① ATR585C の基本仕様と設計思想
ATR585C は、Sony の IMX585 裏面照射型 CMOS センサー(STARVIS 2 世代)を採用したカラー冷却カメラです。IMX585 は元々セキュリティカメラ向けに設計された高感度・低ノイズセンサーで、Type 1/1.2(対角 12.84mm)、有効画素 3856×2180、記録推奨画素 3840×2160、単位画素 2.9µm × 2.9µm という仕様が Sony 公式フライヤーに明記されています。ATR585C はこのセンサー特性をそのまま活かし、深宇宙撮影に必要な冷却・低ノイズ環境を追加した構成になっています。
出典: Sony IMX585-AAQJ1 Flyer v1.0 §Device Structure、ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §1 Description and Features / §2.1 Camera Specifications
1-1. 主要スペック早見表
| 項目 | 値 |
|---|---|
| センサー | Sony IMX585 裏面照射型 CMOS(カラー) |
| 光学サイズ | 1/1.2 インチ(対角 12.85mm) |
| 記録解像度 | 3840 × 2160(約 8.3 MP) |
| 画素ピッチ | 2.9µm × 2.9µm(正方画素) |
| ADC / 出力ビット | ネイティブ 12-bit(HDR モード時 16-bit) |
| シャッター | ローリングシャッター |
| 露光時間 | 0.1ms 〜 3600s |
| ゲイン | 1x 〜 100x |
| Read Noise | 0.65 〜 0.46 e-(HCG) |
| Full Well | 最大 40 ke-(LCG モード時) |
| QE Peak | > 91% |
| ダイナミックレンジ | 86.5 dB(HDR モード) |
| DDR3 バッファ | 512 MB(4 Gb) |
| 冷却 | 二段 TEC、短時間 -35℃/長時間(>1s)-45℃(環境温度比) |
| 保護窓(カラー機) | IR カットフィルター(透過帯 380-690nm) |
| カメラマウント | M42F × 0.75mm |
| バックフォーカス | 17.5mm(付属 M42 外ネジ環交換で 12.5mm 化可) |
| 外形/重量 | Φ80mm × 高さ 107.1mm / 0.577kg |
| 電源 | DC 12V 3A(付属アダプター AC100〜240V → DC12V 3.3A) |
| データ通信 | USB 3.0 / USB 2.0(USB 2.0 HUB 別途搭載) |
1-2. なぜ IMX585 は深宇宙・惑星の両方向きなのか
IMX585 は 2.9µm という比較的小さな画素ピッチと、STARVIS 2 世代の高感度・低ノイズを両立しています。ATR585C の公式マニュアルは QE ピーク > 91% と表記しており、この高い量子効率が短時間露光でも SN 比を稼げる根拠になっています。加えてローリングシャッターながら 24 FPS @ 3840×2160(USB 3.0 / 12bit)まで出せるため、月・惑星のスタック撮影にも耐えられる速度を持ちます。
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §2.1 (QE Peak >91%, Max FPS)、Sony IMX585-AAQJ1 Flyer §Features (STARVIS 2 世代の特徴)
② 開封と機械接続(M42・バックフォーカス 17.5mm)
2-1. 付属品(Packing List)
ToupTek 公式マニュアル §3.1 に記載の標準同梱品は次のとおりです。
| 品目 | 仕様 |
|---|---|
| ATR585C カメラ本体 | M42×0.75 マウント + 2 インチアダプター |
| 電源アダプター | AC 100〜240V 50/60Hz → DC 12V 3.3A |
| 電源ケーブル | 1.5m |
| USB 3.0 データケーブル | A オス - B オス 金メッキ 1.5m |
| M48-M42 変換環 | 0mm |
| M42M-M42F 延長筒 | 21mm |
| M48F-M42M 延長筒 | 16.5mm |
| M42M アダプター | 12.5mm |
| カバー | 保管・持ち運び用 |
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §3.1 Packing List Table 6
2-2. バックフォーカスの考え方
ATR585C の女性フランジからセンサーまでの距離(バックフォーカス)は 17.5mm です。標準構成では 17.5mm ですが、付属の M42 外ネジ環を交換することで 12.5mm に短縮することもできます。短縮すると、フィルターホイール・OAG・エクステンダー等を挟むための残り光路長を大きく取れるため、光学設計に合わせて調整してください。
望遠鏡への取り付けは、鏡筒側インターフェースに応じて以下の系統になります。
- 2 インチ接眼筒:M42-2 インチアダプター経由で直接差込
- M42 ネジ:M42×0.75mm 直結(望遠鏡側 M42 に注意)
- M48 ネジ:M48M-M42F アダプター経由
- M54 / M68 ネジ:Quick Start ガイドの「Astronomical Telescope Connection Solution」に準じ、AFW(アクセサリーホイール)や OAG 変換環を組み合わせる
フィルターホイールとオフアクシスガイダー(OAG)を挟む場合、バックフォーカス合計は 55mm / 56mm(Quick Start ガイドの標準構成例)を目安に光路長を積み上げてください。
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §3.4 Camera Mechanical Connection with Adapter、ATR Series Quick Start §Astronomical Telescope Connection Solution
2-3. カメラレンズを使う場合(Nikon F / Canon EF)
DSO 撮影ではあまり使われませんが、Nikon F または Canon EF マウントのカメラレンズを M42 変換環経由で装着できます。マニュアル §3.5 に「Nikon F-M42 adapter」「EOS EF-M42 adapter」の記載があり、日中の広角テスト・撮影対象確認・オールスカイ用途で有効です。
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §3.5 Camera Mechanical Connection with Lens
③ 電源と配線(DC 12V 3A 必須の理由)
3-1. なぜ USB では動かないのか
ATR585C は「USB 給電では動作しない」設計になっています。マニュアル §3.6 に明記されているとおり、IMX585 の消費電力が大きいため、カメラ本体(+冷却系)は DC 12V 3A の電源ポートからのみ起動する仕様です。USB 3.0 はデータ通信専用で、電源ラインとしては機能しません。この設計は、二段 TEC・防露ヒーター・DDR3 バッファをすべて安定して動かすためのものです。
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §2.7 / §3.6 Camera Electric Connection with Accessories、ATR Series Quick Start FAQ Q1
3-2. 電源の選び方
Quick Start ガイド FAQ Q1 では、次のように推奨されています。
- 安定した単一出力 12V 3A 以上を提供できる電源を使う
- 付属のスイッチング電源アダプター(AC 100〜240V → DC 12V 3.3A)を第一候補にする
- ハブ型電源や不安定な電源を使うと、画像の異常や、最悪カメラ本体の損傷の恐れがある
- フィールド運用ではリチウムイオン系のポータブル電源(11〜14V の安定出力)を用意する
屋外運用時に電源の分岐が必要な場合、Pegasus Astro のような専用配電ハブ、または DC 分岐ケーブルで ATR585C の 12V ラインを他の機材(赤道儀・フォーカサー・ヒーター)と共有しないようにしてください。他機材の起動電流でカメラ側の電圧がドロップすると、冷却が停止したり画像に横縞が乗ることがあります。
出典: ATR Series Quick Start FAQ Q1、ToupTek Blog: AstroShed Review Part 1(Pegasus 配電使用例)
3-3. USB 2.0 HUB の使い方
本機の背面には、USB 3.0/2.0 データ端子とは別に USB 2.0 HUB ポートが備わっています。マニュアル §3.6 Table 10 によれば、この HUB はフィルターホイールやガイドカメラを 1 本の USB ケーブルで PC 側に集約するためのものです。鏡筒周りのケーブルマネジメントをすっきりさせる目的で活用でき、ケーブルの取り回しに伴うトラブル(引っ掛け・断線・電源分岐失敗)を減らせます。
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §3.6 Table 10 Camera Electric Connection Details
④ ソフトウェア導入(ToupSky・ASCOM・N.I.N.A・SharpCap)
4-1. 一次ドライバは「ToupSky」+ローカルドライバ/ASCOM/DirectShow
ToupTek 公式は、Windows 向けの制御アプリ ToupSky(キャプチャ・ライブスタック・フラット/ダーク補正・ROI・8/12bit 切替を統合)を提供しています。サードパーティ製ソフト(N.I.N.A、SharpCap、PHD2、FireCapture 等)から使う場合は、同じインストーラーに含まれる ローカルネイティブドライバ + ASCOM ドライバ + DirectShow (DShow) ドライバを導入します。
公式サイトのダウンロードページ(touptek-astro.com/downloads/)から最新のドライバインストーラー 1 本を落とせば、ネイティブ/ASCOM/DShow がまとめて入る構成です。
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §4.1 / §4.2 / §4.3、ATR Series Quick Start §Connecting the ATR series cameras to N.I.N.A.
4-2. N.I.N.A から接続する手順
Quick Start ガイドの「Connecting the ATR series cameras to N.I.N.A.」に記載の手順を要約します。
- ToupTek 公式ダウンロードページから ToupTek Astro カメラ/フィルターホイール用ドライバーインストーラをダウンロードし、ワンクリックでインストール(インストール先の指定不要)
- ATR585C に 先に DC 12V 3A 電源を接続してから、USB 3.0 で PC に接続
- N.I.N.A を起動し、
Equipment → Cameraセクションを開く - ドライバプルダウンから ToupTek セクションを展開し、対応するローカルドライバを選択
- 「Connect」ボタンで接続を確立
ドライバがカメラを見つけられない場合は、Windows の Device Manager から USB 系デバイスの状態を確認し、? / ! マーク付きのエントリを一度アンインストールしてから再接続してください(Quick Start FAQ Q2 準拠)。USB ハブ経由の場合はハブ側の電源も疑ってください。
出典: ATR Series Quick Start §Connecting the ATR series cameras to N.I.N.A. / FAQ Q2
4-3. 対応サードパーティソフト
公式マニュアル §4.3 に記載された対応ソフトの一覧です(DSO・惑星撮影・オートガイドで組み合わせやすいものを抜粋)。
| 用途 | 対応ソフト |
|---|---|
| 深宇宙 制御・シーケンス | N.I.N.A、MaxIm DL、Nebulosity、AstroArt |
| Linux / macOS の統合制御 | INDI |
| オートガイド | PHD Guiding、MetaGuide |
| 惑星・月・太陽キャプチャ | SharpCap、FireCapture |
| スタック・後処理 | DeepSky Stacker、Registax、AstroStack |
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §4.3 Support Software Table / §4.3.2〜§4.3.14
⑤ 冷却制御と結露対策
5-1. TEC 冷却の性能
ATR585C の冷却系は 二段 TEC(Thermoelectric Cooling)+ 制御可能なファンで構成されています。マニュアル §2.7 によれば、TEC は PID アルゴリズムで制御され、目標温度を 0.1℃ 偏差で追従します。有効冷却差は次のとおりです。
- 短時間露光:環境温度から -35℃
- 長時間露光(>1s):環境温度から -45℃
この差分は 25℃ 前後の室温を基準とした値です。Quick Start FAQ Q4 に「環境温度が低いほど有効な冷却差は小さくなる」と明記されているので、真冬の遠征では -20℃ 以下まで狙わなくても十分に暗電流を抑えられます。
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §2.7 Power and Cooling System for Precise Temperature Regulation、ATR Series Quick Start FAQ Q4
5-2. 目標温度の決め方
Quick Start ガイド FAQ Q3 の N.I.N.A 推奨初期値は次のようになっています。
| 項目 | 推奨値 |
|---|---|
| Target Temperature | 環境温度に応じて調整、0℃ 以下を出発点。極寒地以外は -20℃ 以下は非推奨 |
| Cooling Duration | 時間に余裕があれば 長めに設定(急冷結露を避ける) |
| Rewarming Duration | 3〜5 分(撮影終了後にゆっくり温度を戻し冷却系寿命を延ばす) |
| Fan Speed | 1(冷却中は必ず ON) |
出典: ATR Series Quick Start FAQ Q3
5-3. 防露ヒーターと結露対策
ATR585C の前面保護窓には 防露(Anti-Dew)ヒーターが組み込まれており、公式製品ページによれば消費電力は約 5W、4 段階で強度を調整できます。多湿環境(夏の遠征・海沿い・霧が出やすい山間部)ではヒーターを高めに設定して、外側窓の曇りを防いでください。
冷却開始直後に画面中央に薄い影が出る場合、Quick Start FAQ Q5 は「保護窓の急冷による外側結露」を原因として挙げています。対処はヒーターを最大に設定してしばらく待つこと。結露が消えれば影も消えます。「湿度が高いか判断がつかないときは 4 段階のうち 2 段目から始める」というのが公式の推奨です(FAQ Q3)。
出典: ToupTek Product Page: ATR585C(Anti-Dew Technology 4 段調整)、ATR Series Quick Start FAQ Q3 / Q5
⑥ ゲインモード(HCG/LCG/HDR)の使い分け
6-1. 3 つのゲインモードの位置づけ
ATR585C は「Conversion Gain Switch」機能を持ち、HCG(High Conversion Gain)/ LCG(Low Conversion Gain)/ HDRの 3 モードを切替できます。それぞれ狙う特性が違います。
| モード | 特徴(マニュアル値) | 向いている用途 |
|---|---|---|
| HCG | Read Noise 最小 0.46 e-(Gain 1778)/ Full Well 4.1 ke-(Gain 100) | 深宇宙・淡い星雲・銀河(低ノイズ重視) |
| LCG | Read Noise 5.18 e-(Gain 100)/ Full Well 40 ke-(Gain 100) | 明るいターゲット・惑星面・輝度差の大きい星雲(大フルウェル) |
| HDR | 16-bit 出力、Dynamic Range 14.52 stop(Gain 100)/ 86.5 dB | M42 のコアと外側のような明暗差の激しい対象 |
出典: ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §2.1 / §2.6 / §2.9 Tables 3-5、ToupTek Blog: With HDR mode, ATR585C provides 16-bit depth
6-2. HDR モードの仕組み
ATR585C はネイティブ 12-bit ADC ですが、公式ブログ「With HDR mode, ATR585C provides 16-bit depth」に明記のとおり、HDR モードでは 低ゲイン画像と高ゲイン画像を同時に取得して 1 枚にマージすることで、実質 16-bit 相当の階調を得ています。マニュアル §2.3 には「HDR モードを有効にするとフレームレートは半分になる」と注意書きがあります。DSO の長時間露光では体感的な影響は少ないですが、惑星撮影で速いフレームレートを重視する場面では要注意です。
出典: ToupTek Blog §HDR paragraph、ToupTek ATR585C User Manual v1.2 §2.3
6-3. Full Well Mode の使いどころ
Quick Start FAQ Q3 では「Full Well Mode」について「輝度差の大きな天体(M42 のように中心と外縁で明暗差が大きい対象)ではオンにし、Gain を 177 以上に設定することを検討。それ以外の通常撮影ではオフを推奨」と述べられています。オンにする= LCG 系の大フルウェル特性を積極的に使う運用と理解してください。
出典: ATR Series Quick Start FAQ Q3
⑦ 撮影パラメータの推奨値
7-1. N.I.N.A の初期セット(Quick Start FAQ Q3 準拠)
| パラメータ | 推奨初期値 | 補足 |
|---|---|---|
| Default Gain | 100 | 出発点。対象に応じ後述の HCG/LCG に応じ増減 |
| Default Offset | 256 以上(HCG 時) | HCG モード時に十分な暗電流マージンを確保 |
| USB Limit | 9 | 転送安定性の設定値 |
| Readout Mode | HCG | 深宇宙撮影の標準 |
| Low Noise Mode | 利用可能なら有効 | 機種によって有無あり |
| Full Well Mode | 通常 OFF /輝度差の大きい対象は ON | ON 時は Gain 177 以上 |
| Anti-Dew Heating | 2 段目から開始(環境湿度で調整) | 湿度が高いほど強く |
| LED Lights | 遠征・共同観測では OFF | 他観測者への配慮 |
出典: ATR Series Quick Start FAQ Q3(N.I.N.A parameter recommendations)
7-2. ライト・ダーク・バイアス・フラットの露光時間
| フレーム種別 | 推奨露光 | 補足 |
|---|---|---|
| Light(本露光) | 120s 〜 600s(標準 300s) | 追尾精度・光害・対象輝度で調整 |
| Dark | Light と同露光・同温度・同ゲイン | 遮光して撮影 |
| Bias | 0.0001s | 最短露光 |
| Flat | 1s 以上(撮影対象光源で調整) | 1s 未満はローリングシャッターの副作用を受けやすい |
出典: ATR Series Quick Start FAQ Q3(Light / Dark / Bias / Flat 露光の推奨値)
7-3. AstroShed(第三者)の実運用例
ToupTek 公式ブログに掲載された AstroShed の使用レポートによれば、Skywatcher Esprit 100 屈折鏡筒 + ATR585C の組み合わせで、-10℃ 冷却(±0.1℃ 保持)/ High Gain モード / 汎用光害フィルター / 1 分露光を 2 時間積算して M51(子持ち銀河)を撮影しています。防露ヒーターは 4 段中 2 段(デフォルト)のまま、電源は Pegasus 配電ハブから供給。上記のマニュアル推奨値がそのまま実運用でも成立していることを裏付ける例として参照できます。
出典: ToupTek Blog: AstroShed Review Part 1(Skywatcher Esprit 100、M51、-10℃、Gain, 電源例)
⑧ フィルターの組み合わせ(IR カット窓+外付けフィルター)
8-1. ATR585C の保護窓は IR カット
ATR585C のカラー機は、前面保護窓が IR カットフィルター(透過帯 380〜690nm)になっています(マニュアル §3.3)。既にセンサー前で近赤外がカットされているため、天体側の光害フィルターや狭帯域フィルターを組み合わせる際は「センサー前段は IR カット済み」を前提に選定してください。モノクロ機(ATR585M)は AR ウィンドウ(反射防止コート)なので、必要に応じて別途 IR カット/L フィルターを差し込む運用が前提になります。
8-2. 光害地・都市部で銀河・反射星雲を撮る:Optolong L-Pro
市街地から銀河・反射星雲・球状星団を撮る場合、Optolong 公式ページで挙げられている Optolong L-Pro はマルチバンド光害カットフィルターとして選択肢になります。水銀灯・低圧/高圧ナトリウム灯・大気酸素発光をブロックしつつ、OIII / Hβ / Hα / SII / NII の主要輝線と連続光を高透過させる設計です。カラー冷却カメラでも使いやすいと明記されています。
出典: Optolong L-Pro 公式ページ §Wavelengths / §Target suitability
8-3. 発光星雲を狭帯域+カラーで撮る:Optolong L-eNhance
発光星雲(Hα 領域の散光星雲、惑星状星雲)をカラー機で撮る場合は、Optolong の L-eNhance のようなデュアルバンドフィルターが定石です。Hα / Hβ / OIII を通し、光害線を 99% 以上ブロック(最大透過率 90%)。DSLR /カラー CMOS /モノクロ CCD の全てで使える設計とされています。街中でもナローバンド的な絵作りができる代表格です。
出典: Optolong L-eNhance 公式ページ §Filter overview / §Compatibility
8-4. IMX585 の量子効率と狭帯域相性(第三者実測)
ATR585C 自体のカラーバージョンの QE 曲線は ToupTek 側から数値公開されていませんが、QHYCCD が同じ IMX585 センサー(モノクロ版)を積んだ miniCAM8M で実測した QE として、OIII(500.7nm)で 91.2%、Hα(656.3nm)で 80.9%、SII(671.6nm)で 78.7% を公表しています。これは狭帯域撮影で必要な波長で高い応答性能を持つセンサーであることの傍証になります(カラー版は Bayer フィルター損失があるため参考値)。
出典: QHYCCD IMX585 Quantum Efficiency Measurement(miniCAM8M 実測 QE 表)
⑨ 関連商品
本記事で扱った ATR585C の商品ページと、組み合わせで検討されやすい関連機材を挙げます。
光学系はセンサーサイズ 1/1.2 インチに合わせて焦点距離 300〜700mm クラスの短焦点鏡筒(Askar 60F / 71F / SQA70 / SQA85 / FMA180 Pro 等)や、惑星撮影用の中〜長焦点鏡筒との組み合わせが実用的です。バックフォーカスは 17.5mm(オプションで 12.5mm 化)を起点に、フィルターホイール・OAG の光路を積み上げて調整してください。
⑩ ATR585C の使い方相談|商品ページ・公式 LINE のご案内
本記事で扱った商品ページはこちら
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最終更新: 2026-07-07/執筆: 天体ショップ スタッフ/記事内のすべての技術情報は ToupTek 公式マニュアル・公式ブログ・Sony IMX585 公式フライヤー・Optolong 公式ページ・QHYCCD 公表 QE データに基づいて記載しています。弊社内部統計や実績数値は記載していません。一次情報で裏取りできない項目は削除してあります。
⑪ よくある質問(FAQ)
Q1. USB だけで動かせますか?
いいえ。ATR585C は USB 給電では動作しません。DC 12V 3A の電源ポートからのみ本体(+冷却系)が起動します。USB 3.0/2.0 はデータ通信専用です。付属の 12V 3.3A スイッチング電源、または安定した 12V ポータブル電源を使ってください。出典: ATR585C Manual §3.6/Quick Start FAQ Q1
Q2. 冷却温度が下がらない・不安定です。
Quick Start FAQ Q4 の切り分け手順が有効です。①長時間露光(300s〜600s 相当)をトリガーして内部動作を安定させる、②環境温度と目標温度差が公称値(-35〜-45℃)を超えていないか確認(環境温度が低いほど差は縮む)、③電源出力が 12V 3A 以上を安定供給できているか確認、④N.I.N.A の冷却コマンドがカメラに届いていない場合は N.I.N.A を再起動してカメラを再接続。出典: Quick Start FAQ Q4
Q3. 撮影開始直後に画面中央に薄い影が出ます。
急冷による保護窓外側の結露が典型的な原因です(Quick Start FAQ Q5)。防露ヒーターを最大に設定してしばらく待つと解消します。次回以降は Cooling Duration(冷却下降時間)を長めに取り、緩やかに目標温度まで下げると再発を防げます。出典: Quick Start FAQ Q3 / Q5
Q4. HDR モードは常時オンにして良いですか?
常時オンは推奨しません。HDR モード有効時はフレームレートが半分になります(マニュアル §2.3)。明暗差の大きい対象(M42 のようにコアと外側で桁違いの輝度差がある星雲)や、後処理で階調を伸ばしたい場面に絞ってオンにするのが定石です。出典: ATR585C Manual §2.3/ToupTek Blog: HDR mode
Q5. ドライバをインストールしたのに N.I.N.A / ToupSky でカメラが見えません。
Windows の Device Manager を開き、Universal Serial Bus devices に ? または ! アイコンが出ていないか確認します。表示されていれば当該デバイスをアンインストールし、カメラを差し直します。USB ハブ経由なら、直挿しに変えるかハブの給電を確認してください(Quick Start FAQ Q2)。USB 3.0 データケーブルは付属品を最優先で使ってください。出典: Quick Start FAQ Q2
Q6. HCG と LCG、初心者はどちらを使うべき?
深宇宙(星雲・銀河)を撮るなら HCG から始めるのが無難です。低ノイズが効くので、暗い対象の淡い部分を積分するのに向きます。惑星面・月面・輝度差の大きい対象では LCG(大フルウェル)が有利になります。両方の特性を 1 枚に取り込みたいときは HDR モードで妥協点を得られます。出典: ATR585C Manual §2.6 / §2.9
Q7. 保証はどうなっていますか?
ATR585C は弊社独自の初期不良 60 日 + 3 年保証でお届けします。ToupTek 公式のアフターサービスポリシーは Quick Start ガイドに掲載されており、購入日から 2 年の標準保証と DOA(初期不良)対応が定められています。弊社はこれに加えて 60 日初期不良・3 年保証をご提供しています。出典: Quick Start §After-sales Service Policy/弊社独自保証規約
参考にした一次情報
- ToupTek ATR585C(ATR3CMOS08300KPA) User Manual v1.2(2025 年 4 月)
- ToupTek ATR Series DSO Cooled Camera Quick Start
- Sony Semiconductor Solutions IMX585-AAQJ1 Flyer v1.0
- ToupTek Official Blog: With HDR mode, ATR585C provides 16-bit depth
- ToupTek Product Page: ATR585C(IMX585) Cooled Astronomy Camera
- ToupTek Official Blog: Review of the ToupTek ATR585C by AstroShed, Part 1
- Optolong L-eNhance 公式製品ページ
- Optolong L-Pro 公式製品ページ
- QHYCCD: Quantum Efficiency Performance of the IMX585 Sensor
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最終更新: 2026-07-07/執筆: 天体ショップ スタッフ/記事内のすべての技術情報は ToupTek 公式マニュアル・公式ブログ・Sony IMX585 公式フライヤー・Optolong 公式ページ・QHYCCD 公表 QE データに基づいて記載しています。弊社内部統計や実績数値は記載していません。一次情報で裏取りできない項目は削除してあります。